やきものの中では白磁が一番むずかしいといわれている。なぜなら何も描かれていない白磁の肌は、それを見る人の心を、吸い取ることもはねかえすことも自由にできるからだ。古伊万里を世界にはばたかせた柿右ヱ門様式の濁し手や、凛として清らかな有田の白磁は、暮らしの中で私たちの心を魅了しつづけている。遠い昔、まだ磁器の生まれる前、人々は土蔵の白壁や障子の白さで心をいやしてきた。いま私たちはそれを白磁で手にしたのだ。

中島誠之助（なかじませいのすけ）

古美術鑑定家・エッセイスト。1938年生まれ。東洋古陶磁器を世に広める。79年「南青山骨董通り」を作詞、これが東京・青山の“骨董通り”の由来になる。TV「開運！なんでも鑑定団」に出演、鋭い鑑定眼と歯切れのよい江戸っ子トークで人気者に。「いい仕事してます」の名文句で「96年度ゆうもあ大賞」。著書に「古伊万里染付入門」（平凡社）「体験的骨董用語録」（ちくま文庫）など。